助動詞「です」の光と影

次の記事の続きです。
避けにくい二重敬語「……ませんでした」

丁寧の助動詞として、「です」は当初と比べて、かなり活躍の場が広がっています。

そもそも、「です」という助動詞は、本来、体言やそれに準ずるものにしか接続しない助動詞です。
平たく言えば、断定の助動詞「だ」の丁寧語版、という役割ですね。

<名詞>
これは本だ。
これは本です。

<助動詞「の」>
さあ、旅立つのだ!
さあ、旅立つのです!

<形容動詞の語幹>
とてもきれいだ。
とてもきれいです。

このように、断定の助動詞「だ」で言うところを、その「だ」を「です」に置き換えることで、「丁寧な断定」に変える、というのが、助動詞「です」の本来の働きです。
(形容動詞の場合は、「だ」は助動詞ではなく、形容動詞の一部です)

ところが、その使い勝手の良さが認められてか、他にも色々な場面で使われるようになりました。
これらの「です」は「だ」には置き換えられません。

<形容詞>
とても美しいです。
×とても美しいだ。

<過去の助動詞「た」>
美しかったです。
×美しかっただ。

これらが認められると、形容詞の丁寧語は、全て「です」で表現できます。
○現在・肯定:美しいです
○現在・否定:美しくないです
○過去・肯定:美しかったです
○過去・否定:美しくなかったです

でも、これらは本来の「です」の使い方と違うため、依然、これに違和感、あるいは嫌悪感を覚える人もいるようです。
でも、これを回避するのは、かなり難しいんですよね。
どうしても回避する必要がある場合は、「ございます」を使って、次のように言い換えます。
○現在・肯定:美しゅうございます
○現在・否定:美しゅうございません
○過去・肯定:美しゅうございました
○過去・否定:美しゅうございませんでした

過去の否定は、前の記事でも書いた通り、この形式で表現する場合、二重敬語を避けられません。
どちらにしても、問題がないわけではない、ということですね。
そもそも、形容詞+「ございます」の形式は、日常的に使われる言い回しではなく、かなり無理して使う感じになります。

まあ、世の中には形容詞+「です」を嫌う人もいる、ということを頭の片隅に置きつつ、「です」を使うのが良いと、私は思います。

さて、「です」の進出は形容詞に留まらず、動詞にもその活動範囲を広げてきています。

<打ち消しの助動詞「ない」>
行かないです。
×行かないだ。

助動詞「ない」は形容詞型の活用をするので、形容詞に接続されれば、当然ここにも来ますよね。
「行かないです」は、今日では、ほぼ違和感なく受け入れられる表現だと思います。

これだけ広く使われるようになれば、丁寧の助動詞としては「です」しか使われなくなり、「ます」は駆逐されそうな気がしますが、「ます」の動詞への定着度はかなり強いようで、「ます」はなくならないですよね。
「行かないです」と「行きません」を比べた場合、やはり「ます」を使った「行きません」の方が自然であると感じる人が、依然、多いのではないでしょうか。
この感覚が引き金となり、次のような誤用も誕生してくるわけですけどね。
「おぼつかないです」「おぼつきません」どちらが自然?

動詞と「ます」がどれだけ親密なのが、次のようにまとめると良く分かります。
×現在・肯定:行くです
○現在・否定:行かないです
×過去・肯定:行ったです
○過去・否定:行かなかったです

「行くです」は、動詞に直接なので、この表現の違和感が大きいことは、まだ分かります。
でも、「行ったです」も使われないのが、ちょっと不思議です。
だって、その下の「行かなかったです」は普通に使われていますよね?
同じ過去の助動詞「た」への接続でも、その前にくる単語によって、OKかNGかが変わってくる、というわけです。
○美しかったです(形容詞+「た」+「です」)
○行かなかったです(動詞+「ない」+「た」+「です」)
×行ったです(動詞+「た」+「です」)

「です」は、あと一歩のところで「ます」を駆逐し切れずに、足踏み状態である、といった感じですね。

「行くです」のような表現は、いわゆる「言葉の乱れ」という表現の好きな人は、諸手を挙げて「乱れとる。けしからん!」と糾弾するところでしょう。
でも、このように見てくると、中途半端に頑張っている「ます」が「です」に統一されることは、むしろ言葉の乱れを排除し、整った形にする方向の進化に感じられます。

このように合理的な進化の方向だと思える、「行くです」のような表現ですが、これって、意外と普及しないんですよね。
敢えて奇をてらって話す場合とか、アニメのキャラクターに特徴を持たせるために使わせるといった用法に留まり、自然に使われるようには、なかなかなりません。
言葉の変化の方向性って、読めないものですね。

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