避けにくい二重敬語「……ませんでした」

次の記事で、比較的自然に使われている「ます」と「です」の二重敬語「ませんでしょうか」や「ますでしょうか」について書きました。
「ませんでしょうか」「ますでしょうか」「ますですか」
これらは、推量の意味を「ます」では表現しにくいことが、ひとつのポイントでした。

でも、これらよりもさらに自然に使われる形式が「ませんでした」だと思います。
一見、二重敬語の問題など微塵も感じさせないくらいの自然さを醸し出しています。
これは、この形式が、現代語文法の構造上、非常に避けにくいものだからだと、私は感じています。
以下、具体的に説明します。

動詞を丁寧語にする場合、通常、助動詞「ます」を接続します。
たいていの場合、これで問題はありません。
○現在・肯定:行きます
○現在・否定:行きません
○過去・肯定:行きました

でも、過去の否定、つまり「行かなかった」を表現する場合は、どうでしょう?
この場合、「ます」に加えて、打ち消しの助動詞「ん(ぬ)」と過去の助動詞「た」を接続する必要があるわけですが、どのように組み合わせてもうまくいきません。
×過去・否定:行きませんた
×過去・否定:行きませずた
×過去・否定:行きましたん

結局、次のように「です」を呼び出すしかないわけです。
○過去・否定:行かなかったです
この状態であれば、「ます」は使われていないので、二重敬語にはなりません。
でも、「行きます」「行きません」「行きました」と比べて、「行かなかったです」は、少し柔らかさに欠けます。
やはり、動詞の丁寧語には「ます」が付いていて欲しい、ということで、タイトルに挙げた表現が出来上がったのでしょう。
○過去・否定:行きませんでした

動詞を丁寧語にする場合、基本的には、助動詞「ます」が使われます。
でも、助動詞「ます」のみでは、接続できる助動詞に限りがあり、助っ人として「です」を呼ばざるを得ない場面が、どうしても出てきます。
そのような場面で、「ますです」系の二重敬語が発生してくるのでしょう。

先に話した通り、「ます」には、打ち消しと過去の2つの助動詞を同時に接続できません。
これは、そもそも「ます」に接続できる打ち消しの助動詞が、動詞に接続される「ない」ではなく、「ん(ぬ)」であることが原因です。

動詞の場合、打ち消しの助動詞が「ない」なので、過去の助動詞と両立させることができます。
現在・肯定:行く
現在・否定:行かない
過去・肯定:行った
過去・否定:行かなかった

助動詞「ます」の場合も、動詞と同様に助動詞「ない」を付けられようになっていれば、次のようにきれいに活用させられるはずなです。
現在・肯定:行きます
現在・否定:行きませない
過去・肯定:行きました
過去・否定:行きませなかった

でも、これらの表現を見ていると、なぜ、助動詞「ます」には「ない」ではなく「ん」が接続されるようになったのか、ちょっと想像できそうな気がします。
「行きませない」や「行きませなかった」といった表現を見て、どうでしょうか?
「ます」は丁寧の助動詞である、というのがポイントだと思います。

現在使われている形式の、「いえ、行きませんでした」は、丁寧な感じがします。
でも、仮に「ます」に「ない」を接続するのが正しいとして、「いえ、行きませなかった」と言われたら、どうですか?
丁寧語が使われている感じが、非常に薄れてしまうように思われませんか?

現在形でも、同じですね。
「いえ、行きません」
「いえ、行きませない」
「行きませない」は、「ない」の否定の印象が強すぎて、その前の「ませ」の丁寧の印象をかき消してしまう感じがします。
それを回避し、「ます」の丁寧さを消す印象が「ない」ほど強くない「ん」が好まれ、「ませない」は使われなかったのではないだろうか、と私には想像されます。

この流れで考えると、丁寧の助動詞として「です」の使われる場面が増えてくるのも理解できます。
「です」は、打ち消しの助動詞を後に伴う形、まあ、例えば「でせん」とか「でせない」といった使い方はありませんからね。

助動詞「です」についての考察は、次の記事に譲ることにしましょう。
助動詞「です」の光と影

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