「けしからない」「たゆまない」「見果てない」

※次の記事の続きです。
「おぼつかぬ」の仲間「やるせぬ」

「けしからん」という言葉は、そもそもどのような成り立ちの言葉なのでしょう?
「大辞林 第二版」で調べてみました。
けしからん 【▽怪しからん】
(連語)
(1)「けしからぬ」に同じ。
「―ことを言うやつだ」
(2)憤慨した感情を表出する語。
「こんなに待たせるとは全く―」

「けしからぬ」に同じ、とあります。
そう、元々の形は「けしからぬ」ですよね。そちらも調べてみましょう。
けしからぬ 【▽怪しからぬ】
(連語)
道理や礼儀にはずれていてよくない。無礼だ。不都合だ。けしからん。
「―振る舞い」
補足説明
本来は「怪(け)しかる」の意。強い否定の意を表すために、誤って打ち消しの助動詞「ぬ」を加えたもの
なるほど。成り立ちとしては、誤用の定着ということなんですね。

ここに、打ち消しの助動詞「ぬ」とありますが、これは、打ち消しの助動詞「ず」の連体形ですよね。
助動詞を終止形にした「けしからず」も調べてみましょう。
けしからず 【▽怪しからず】
(連語)
補足説明
形容詞「けし」の補助活用「けしかり」の未然形「けしから」に打ち消しの助動詞「ず」の付いたもの
※語義と用例は省略しました。

なるほど、つまり、「けしからぬ」は、誤って加えられた打ち消しの助動詞「ぬ」を除けば、「怪(け)しかる」の意味である、と。
そして、これを普通の活用に戻せば、「怪(け)しき」と表現できることになりますね。
(終止形が「怪(け)し」。シク活用形容詞なので、連体形は「怪(け)しき」になる)
つまり、現代語の形容詞の活用にすれば、「けしい」となりますね。
まあ、そんな言葉はないですけどね。

さて、ちょっと話はそれましたが、この「けしからぬ」という言葉は、ちょっと特殊なところがありますよね。
打ち消しの助動詞「ぬ」は、現代の標準語では「ない」なので、「ぬ」を「ない」に置き換えて「けしからない」という表現もあって良さそうな気がするのですが、「けしからない」という表現はあまり聞かないですよね。

「けしからぬ」は、そのような決まった形式でのみ、慣用的に使われる表現なので、活用させる必要がなく、古語の連体形のまま、それが連体詞的に使われるようになっている、ということなのでしょう。
似たような例は、他にもありますね。

<たゆまぬ>

「たゆまぬ努力」などと使いますね。
でも、「たゆまない努力」とか、「努力がたゆみません」などとは使いませんね。
元々は「弛む」という動詞に打ち消しの助動詞「ず」が付いて「弛まず」とし、その連体形の「弛まぬ」、という成り立ちなのでしょうが、元となる「弛む」という動詞は、現代語ではあまり使わないですよね。

実質的には、「たゆまぬ」というのは、活用しない連体詞のような扱いで使われている気がしますが、「大辞林 第二版」を調べたところ、見出し語としては「たゆまぬ」は載っていません。
以下の通り、「弛む」の項に、「現代では多く打ち消しの語を伴って用いる」と書かれています。
つまり、「たゆまぬ」は、依然「弛む」の否定形、という扱いではあるんですね。
たゆむ 【▼弛む】
(動マ五[四])
補足説明
「弛し」の動詞形
(1)心の緊張がゆるむ。なまける。現代では多く打ち消しの語を伴って用いる。
「倦(う)まず―・まず」「皆人も―・み給へるに、にはかに御気色ありて/源氏(葵)」
(2)勢いが弱まる。衰える。とまる。
「時節風―・み…御舟更に進まず/太平記 7」
(3)怠る。しないですます。
「供養法―・みて急ぎ参れり/源氏(明石)」
(4)張っていたものがゆるむ。たるむ。
「糸ガ―・ム/日葡」
(5)だるくなる。
「足―・み身疲れて/太平記 3」(動マ下二) 油断させる。警戒をとかせる。
「なにとも思ひたらぬさまにて―・め過ぐすも、またをかし/枕草子 276」

<見果てぬ>

「見果てぬ夢」などと使いますね。
でも、これもやはり、「見果てない夢」とか、「私の夢は見果てません」などとは使わないですよね。
こちらも見出し語として「見果てぬ」はありませんが、「見果てる」の項の中に、「見果てぬ夢」と、「夢」まで含めた状態で意味が記載されています。
みはてる 【見果てる】
(動タ下一)[文]タ下二 みは・つ
最後まで見る。全部を見る。見届ける。
「石山の仏心をまづ―・てて、春つかたさもものせむ/蜻蛉(中)」
見果てぬ夢
実現不可能な事柄。
「―を追う」

「けしからん」、「たゆまぬ」、「見果てぬ」。
これらはいずれも、成り立ちとしては動詞の否定形ですが、肯定の状態で使われることがほとんどなくなり、打ち消しの連体形だけが、慣用的な表現として残っている、という感じなのでしょうね。

これらよりは、もう少し柔軟に使われるものに、「くだらない」という言葉があります。
これは、「くだらぬ」も使うし、「くだらない」も使います。
でも、「くだりません」とは言わないですよね。
成り立ちとしては、「くだら」+「無い」ではなく、「くだる」の否定形だと思うのですが……。

これについては、次の記事で書くことにしましょう。
「くだらない」「つまらない」「すまない」

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