「してない」や「やってない」は「い抜き言葉」?

彼はいつも勉強してるね。
何か面白い番組やってる?
今、日記を書いてるんだ。

これらの表現は、「い抜き言葉」と言われます。
「ら抜き言葉」「れ足す言葉」「さ入れ言葉」などと並んで、いわゆる「日本語の乱れ」として攻撃されることのある表現ですね。
個々の表現についての詳細は、以下の記事に書いてあるので、ここでは省略します。
「れる」と「られる」について
「い抜き言葉」と「ら抜き言葉」
「れ足す言葉」
「さ入れ言葉」

上述の例については、補助動詞の「いる」の「い」を省略せず、正しいと言われる書き方をすると、以下の通りになります。
彼はいつも勉強しているね。
何か面白い番組やっている?
今、日記を書いているんだ。
これで、文法的には正しい形になりますが、「い」が入ると、かなり言葉のリズムが崩れますよね。
特に「面白い番組やっている?」については、会話で使う場合、逆に間違いといっても良いくらいに不自然です。
上で挙げた、いわゆる「日本語の乱れ」の例の中でも、「い抜き言葉」に対しては、比較的寛容な人が多いように思われます。

さて、肯定文で使われる場合には、「い抜き言葉」の識別は容易ですが、これが否定文になると、ちょっとややこしい話になってきます。

まず、上述の例を否定形にしてみましょう。
してない
やってない
書いてない

これらは、上述の例のような使い方の否定形だと考えれば、「い抜き言葉」であるといえるでしょう。
つまり、次のような対称関係にあると考えられます。
<形式1>
肯定否定
してるしてない
やってるやってない
書いてる書いてない
これは、次のような形式になっています。
肯定: 動詞+助詞「て」+助動詞「いる」
否定: 動詞+助詞「て」+助動詞「いる」+助動詞「ない」
つまり、現在進行形の肯定・否定ということですね。
その表現から、助動詞「いる」の「い」が欠落した状態、ということです。

ところが、「……てない」という言葉について、次のような対称関係を考えることもできます。
<形式2>
肯定否定
してあるしてない
やってあるやってない
書いてある書いてない
これは、次のような形式になっています。
肯定: 動詞+助詞「て」+補助動詞「ある」
否定: 動詞+助詞「て」+補助形容詞「ない」
否定の形は、い抜き言葉の場合と全く同形となりますが、こちらは文法的に全く不備のない形式です。

具体的な例で考えてみましょう。

A: 勉強してる?
B: いや、してない。
これは「い抜き」ですね。
Aの質問も、Bの回答も、上記形式1の現在進行形であると考えられます。

では、次の例はどうでしょう?

A: 何か書いてある?
B: いや、何も書いてないよ。
このやり取りでは、「何かが書かれた状態」であるか否かについて論じられています。
つまり、これは上記形式2であると考えられ、この場合のBの回答は「い抜き」ではないことになります。

面倒な話になってきましたが、もうひとつ、次の例はどうでしょう?

A: お前がやったんだろう?
B: いや、俺はやってない。

これはちょっと不思議ですね。
「やった」かどうかの質問に対する回答なので、「やってない」というのは「やった」の否定形なのだと考えられます。
あれ? 「やった」の否定は「やらなかった」になるはずでは?
でも、「いや、俺はやらなかった」とは言わないですよね。

おそらく、この場合の「やった」「やってない」というのは、現在完了形の肯定・否定なのでしょうね。
すると、この場合、「やってない」は、「やっている」の否定でしょうか?
それとも、「やってある」の否定でしょうか?
「やっている」の否定であるように思われますが、確かではないので、ここでは結論は保留としておきましょう。

いずれにしても、肯定では「い抜き言葉」と言われますが、否定になると、あまり取り沙汰されることがないように思います。
これは、否定の形になると、どの形式の肯定に対する否定であるかに関わらず、
動詞+助詞「て」+補助形容詞「ない」
の形式であると認識されて、問題ないように感じられるためではないでしょうか。

これは、助動詞「そうだ」を接続してみると、より強く実感できます。
「勉強していそう」の否定を「勉強してなさそう」と言っても、違和感を覚える人は少ないのではないでしょうか。
違和感がなければ、頭の中で自然に上の形に変換されているということだと思います。
詳しくは、次の記事をご覧下さい。
「なそう」と「なさそう」

このように、日常何気なく使われている表現でも、こんな風に色々な表現を文法的に分析してみると、かなりごちゃごちゃしているものがあります。
そして、あまり取り沙汰されない文法的な誤りというのも、色々とあるに違いないと思われてきます。
そう考えれば、小さな文法上の誤りを取り上げて、「それは○○言葉で誤用だ!」などと非難するのはつまらないことだなぁ、と私には思えるのですが、皆さんはいかがですか?

広告

カテゴリ
最新記事
全記事表示リンク

全ての記事を表示する

ブログ内検索
Amazon 検索
FC2ブログランキング

FC2Blog Ranking

関連サイト
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR