「おぼつきません」的な語形が成立する形容詞の条件

(以下の記事の続きです)
「おぼつかないです」「おぼつきません」どちらが自然?

元々、純粋な形容詞としての生い立ちを持ちながら、あたかも動詞の否定形であるかのごとく扱われ、「おぼつきません」という幻の活用形が生み出された形容詞「おぼつかない」。

この語形が自然に成り立つには、以下のような条件が必要なのではないかと、私は考えています。
1. 「ない」の手前が「ア段」「イ段」「エ段」のいずれかであること
2. 活用させた時に、同形となる動詞が存在しないこと
3. 「ない」の手前の部分の意味が分かりにくいものであること
4. 意味の分離点をミスリードするポイントがあること
以下、これらの条件について説明していきます。

1. 「ない」の手前が「ア段」「イ段」「エ段」のいずれかであること

これは明確なことですね。
動詞の未然形+「ない」の形式であると誤解されるには、「ない」の手前が、動詞の未然形と同形にならなければなりません。
以下の通り、「ア段」「イ段」「エ段」のいずれかである必要があります。
ア段: 五段活用(いく → いかない)
イ段: 上一段活用(いきる → いきない)
エ段: 下一段活用(たべる → たべない)

この条件を満たしている形容詞は、たくさんあります。
これらについて、以下のように、無理矢理「おぼつきません」的な変化をさせてみましょう。
ア段
はかない → はく → はきません
つたない → つつ → つちません
おさない → おす → おしません
イ段
だらしない → だらしる → だらしません
ふがいない → ふがいる → ふがいません
もったいない → もったいる → もったいません
エ段
しどけない → しどける → しどけません
おとなげない → おとなげる → おとなげません
もうしわけない → もうしわける → もうしわけません
これらを例として、以下で説明していきます。

2. 活用させた時に、同形となる動詞が存在しないこと

「はかない」→「はきません」や「おさない」→「おしません」の例の場合、「履きません」や「押しません」という、「儚い」や「幼い」と全く無関係な動詞が既に存在するので、これらの形は、「はかない」や「おさない」の否定形としては成立しそうもありません。
(そもそも「儚い」や「幼い」と漢字で表記すれば、独立した形容詞であることが明確になってしまうので、これ以前の問題かもしれませんが)

3. 「ない」の手前の部分の意味が分かりにくいものであること

「もうしわけない」→「もうしわけません」というのは、比較的自然に活用している感じがするのですが、そもそも、「もうしわけない」という形容詞は、漢字で「申し訳ない」と書くと、「申し訳」と「ない」に分離されることが明確です。
「おぼつかない」の場合、「おぼつか」という単語の意味が想像しにいため、「おぼつか」+「ない」に分離されるように感じられにくくなっています。

4. 意味の分離点をミスリードするポイントがあること

3で見た通り、「おぼつかない」は「おぼつか」+「ない」の分離が、すぐには頭に浮かびません。
代わりに、「おぼ」+「つかない」と、本来の意味の切れ目ではない場所で分離できそうな感じがしませんか?
「つかない」を、「付く」の否定である「付かない」と解釈すると、「おぼ」が「付かない」で「おぼつかない」という語形に見えそうです。
「おぼ」の意味は分かりませんが、「……つく」という動詞はたくさんあり、その否定の形「……つかない」という表現は聞き慣れています。
思いつく → 思いつかない
泣きつく → 泣きつかない
はりつく → はりつかない
ざらつく → ざらつかない
このように「……つかない」という語形は耳慣れているため、「おぼつかない」という形容詞も、頭が勝手にこの仲間として分類してしまうのではないでしょうか。

このように見てくると、「おぼつかない」について「おぼつきません」の表現が自然に見えることは、かなり色々な偶然が重なることにより実現しているのだなぁ、と感心します。
このような条件に恵まれた単語は、他には中々なさそうです。

この記事で見てきた単語の中では、第二の「おぼつきません」候補としては、「もうしわけない」が比較的有望に感じました。
「申し訳ない」と漢字で書くと、意味の切れ目があまりにも明確なので、「申し訳ません」とは言いそうにありません。
でも、「もうしわけない」とひらがなで書けば、元々の漢字を「申し分けない」とする誤解の発生する余地が生まれます。
「……わける」という連語も多いので、「……わけない」という表現は、「……つかない」と同様、耳慣れています。
使い分ける → 使い分けない
取り分ける → 取り分けない
切り分ける → 切り分けない

「もうしわけない」と、ひらがなで書かれる機会が多くなってくると、「もうしわけません」という表現の誕生が、俄然、現実味を帯びてきます。
でも、文章入力にパソコンが使われることの多い現代では、「申し訳ない」と漢字で書かれる機会の方が圧倒的に多いように思われます。
なので、「もうしわけません」の誕生の可能性は、やはり低そうですね。

いや、別にがっかりしているわけではないですよ。
言葉の誤用が広まることには、やはり問題もあると思います。
でも、こんな風に言葉の変化の可能性を考えてみることは、私は結構楽しいと思うのですが、いかがでしょうか。

そうそう、「申し訳ない」については、「申し訳ありません」や「申し訳ございません」ですら、誤用だと騒ぎ立てる人もいます。
「もうしわけません」に比べたら、「申し訳ありません」や「申し訳ございません」など、かわいいものですけどね。
これらについては、以下の記事をご覧下さい。
「申し訳ありません」「申し訳ございません」は誤用?

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