「おぼつかないです」「おぼつきません」どちらが自然?

「おぼつかない」という言葉がありますね。
この単語を丁寧語にする場合、次のどちらを使いますか?
1. おぼつかないです
2. おぼつきません
どちらも良く見かけると思います。
語感としては、2の方が柔らかく自然な感じがしませんか?

でも、2の表現は、実は文法的に誤った使い方です。
「おぼつかない」という言葉は、「おぼつく」という動詞を否定の助動詞「ない」で打ち消した形ではありません。
「おぼつか」に接尾語の「ない」が付いた、という成り立ちの言葉のようです。
「おぼつかぬ」という表現も、あまり違和感がないように思いますが、これも、「おぼつく」という動詞の存在を前提として、その未然形に打ち消しの「ぬ」を付けた形となっているので、同様に誤りということになります。

以下、「おぼつかない」の定義を、『大辞林 第二版』より引用しておきます。
おぼつかない 【覚▽束無い】
(形)[文]ク おぼつかな・し
[一]
(1)確かでなくはっきりしない。ぼんやりしている。
「私の―・い記憶で言うと」
(2)うまく行く見込みがない。疑わしい。だめだろう。
「成功はとても―・い」「明日の天気はどうも―・い」
(3)しっかりしていない。心もとない。頼りない。
「―・い足取りの老人」「私の―・いフランス語でもなんとか用が足りた」
[二]
(1)ぼうっとして、はっきりしない。
「今夜(こよい)の―・きにほととぎす鳴くなる声の音のはるけさ/万葉 1952」
(2)気がかりだ。心配だ。
「―・きもの…いま出で来たる者の心も知らぬに/枕草子 70」
(3)心細い。ものさびしい。
「山中に―・くも呼子鳥かな/古今(春上)」
(4)長らく対面しない。無沙汰している。
「かのわたりにはいと―・くて秋暮れはてぬ/源氏(末摘花)」
(5)待ち遠しい。早く会いたい。
「一夜のほど、あしたのあひだも、恋しく―・く/源氏(若菜上)」
(6)不審だ。いぶかしい。
「いづくよりの月かげぞや、出で所―・し/平家 1」
補足説明
古くは「おほつかなし」と清音。「ない」は接尾語。「おほ」は、はっきりしていないさまを表し、[二](1)が原義。「覚束無い」は当て字
[派生]―が・る(動ラ五[四])―げ(形動)―さ(名)

補足説明にある通り、「おぼつかない」という言葉は、「覚束」が「無い」ということではなく、「おほ」である、ということなんですね。
「おほ」は、はっきりしていないさまを表す、とのことなので、「朧月」の「おぼろ」も、同じ語源でしょうかね。
つまり、「おぼつかない」の末尾の「ない」は、否定の形容詞の「ない」ではなく、意味を強調し形容詞を形成する接尾語の「ない」である、というわけです。
形容詞の語尾の「ない」は、否定と強調という正反対の意味があるので、注意が必要ですね。

意味の強調を表す接尾語「ない」の例
切ない(切である)
滅相もない(滅相である)
せわしない(せわしい)

否定を意味する形容詞「ない」の例
限りない(限りがない)
申し訳ない(申し訳がない)
頼りない(頼りにならない)

このように、「おぼつきません」が誕生する原因として、まずは、「強調の『ない』」が「否定の『ない』」に勘違いされやすいことがあります。
語形が同じなのだから、これは間違えるなという方が無理な話です。

そしてそれを受けて、「ず」と「なし」が、現代の標準語では共に「ない」とされていることにより、形容詞の「ない」から助動詞の「ない」への変換が行われ、「おぼつきません」が誕生した、ということになります。
用言に打ち消しの意味を与える「ず」と、形容詞の接尾語、あるいは無を表す形容詞「なし」は、共に「ない」と書かれてしまうので、標準語にどっぷり浸かって暮らしていると、「ず」と「なし」の違いを意識する機会は非常に少なくなります。
動詞を否定形にする場合、「行かない」のように未然形に接続するのに対し、形容詞を否定形にする場合は、「美しくない」のように連用形に接続しますが、この違いも、日常生活では、特に意識することもないですよね。

また、「おぼつきません」と言いたくなる理由として、形容詞の丁寧語化の問題も一役買っていると思います。
形容詞を丁寧語にするには、終止形に「です」を付け、「おぼつかないです」とするわけですが、この形式はどうも語感があまり良くないんですよね。
この形式は、一応正しいとされていますが、これを好まない人もいます。
いや、それどころか、この接続を誤りであると考える人さえいます。

形容詞を丁寧語にするもうひとつの方法として、連用形に「ございます」を接続して「おぼつかのうございます」とするのもありますが、この表現はどうも耳慣れず、かなり違和感のある表現ですよね。
「ございます」は丁寧すぎて、使う場面が限定されそうなことも問題です。

さて、「おぼつかない」は動詞的に活用させても極めて自然に見えますが、そもそも、語尾が「ない」の形容詞であれば、どんなものでも、この変化を成し得るのでしょうか。
いえ、「おぼつきません」のように、形容詞でありながら、動詞のように活用する形がここまで自然である例は、極めて稀だと思います。
私の思い付く限りでは、これ以外の単語は見つかりません。
これが成立するには、色々な条件が必要であり、「おぼつかない」は、数々の条件をクリアした、いわばエリートだといえるのではないかと、私には思えます。

詳細については、次の記事で書くことにします。
「おぼつきません」的な語形が成立する形容詞の条件

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