「お伝えします」と「申し伝えます」その2(謙譲語Ⅰと謙譲語Ⅱを踏まえて)

「お伝えします」と「申し伝えます」】では、「お伝えします」と「申し伝えます」について、敬語を「尊敬語」「謙譲語」「丁寧語」の3分類として考察しました。
3分類で考える限り、「お伝えします」と「申し伝えます」は共に謙譲語であるとしか考えようがなく、そう考えれば、両者に違いはないはずである、という結論になります。

そこで、今度は、敬語を「尊敬語」「謙譲語Ⅰ」「謙譲語Ⅱ(丁重語)」「丁寧語」「美化語」の5分類で考えてみることにしましょう。

まず、敬語の3分類及び5分類とその内容について、Wikipediaより引用します。
3分類 5分類 種別 特徴
尊敬語 尊敬語 素材敬語 話題中の動作の主体が話し手よりも上位であることを表す語
謙譲語 謙譲語 話題中の動作の客体が話題中の動作の主体よりも上位であることを表す語
丁重語 対者敬語 聞き手が話し手よりも上位であることを表す語
丁寧語 丁寧語 聞き手が話し手よりも上位であることを表す語尾の「です」「ます」「ございます」など
美化語 - 上品とされる言い回し・言葉遣い

※一部変更して引用(素材敬語と対者敬語の別を「種別」として項目立て)

なお、平成19年2月2日の文化審議会答申「敬語の指針」では、上の分類表の5分類の分類名について、「謙譲語」は「謙譲語Ⅰ」、「丁重語」は「謙譲語Ⅱ(丁重語)」とされています。
ここでは、それぞれ「謙譲語Ⅰ」と「謙譲語Ⅱ」と呼ぶことにします。
(5分類について「謙譲語」という言葉を使うと、3分類の謙譲語との区別が付かず、紛らわしいため)

「申し伝える」と「お伝えする」。
3分類で考えると、共に「謙譲語」に分類されるのですが、5分類だと、これが異なる敬語に分類されるのだそうです。
「お伝えする」 謙譲語Ⅰ(表では5分類の「謙譲語」)
「申し伝える」 謙譲語Ⅱ(表では5分類の「丁重語」)

さて、両者について、具体的に比較してみましょう。
お客さんから電話があり、自分の会社の社長に伝えておく旨を、お客さんに話す、という状況を想定してみます。

「お伝えします」(謙譲語Ⅰ):
謙譲語Ⅰ(表では5分類の「謙譲語」)は、「話題中の動作の客体が話題中の動作の主体よりも上位であることを表す語」とあります。
「伝える」という動作の「客体」は社長、「主体」は自分です。
客体が主体より上位、つまり、社長が自分より上位である、ということをお客さんに伝えることになります。

まあ、一見すると、これは正しいですよね。だって、社長は当然自分より上位なので。
でも、これは誤りであるとされます。
社長は自分の身内なので、社長が私より上位であることは、会社の外の人であるお客さんに対して伝える必要のない情報です。
この、「ウチ」と「ソト」の使い分けが必要とされることも、敬語をややこしくする一つの要因ですね。

さて、それはともかく、「申し伝えます」の方を見てみましょう。

「申し伝える」(謙譲語Ⅱ):
謙譲語Ⅱ(表では5分類の「丁重語」)は、「聞き手が話し手よりも上位であることを表す語」とあります。
「聞き手」はお客さん、「話し手」は自分です。
聞き手が話し手よりも上位、つまり、お客さんが自分よりも上位であることを伝えているので、これは問題ないですね。

というわけで、このような状況の場合、「お伝えします」は誤りであり、「申し伝えます」が正しい、とされているわけです。

しかしですね……この説明、あっさり納得できますか?
私は、いまひとつしっくりこないところがあります。
そもそも私が中学校で敬語を学んだ1980年代では、敬語の5分類は習いませんでしたので、敬語は「尊敬語」「謙譲語」「丁寧語」の3分類で、ずっと考えていました。
そして、その考え方に基づく限り、「申し伝える」と「お伝えする」の間に差異を見出すことはできません。

平成19年2月2日の文化審議会答申「敬語の指針」では、5分類について、以下のように述べられています。
本答申の第2章以降では,敬語を「尊敬語・謙譲語Ⅰ・謙譲語Ⅱ・丁寧語・美化語」の5種類に分けて解説する。これらは,前項に述べた意味での,現代の敬語の用法や働きを的確に理解する上で,必要だと考えてのものである。
この5種類に分ける考え方は,従来の学校教育等で行われる3種類に分ける考え方と対立するものではない。謙譲語として一括されている語群を「謙譲語Ⅰ」と「謙譲語Ⅱ」の2群に,また丁寧語としてまとめられている語群を「丁寧語」と「美化語」の2群に,それぞれ区分けしたもので,従来の考え方に基づいたものである。このうち「美化語」は,学校教育において既に取り上げられている区分でもある。

うん、確かに「丁寧語」と「美化語」の分化は、大した問題ではないです。
というか、私としては、はっきり言って、分けても分けなくても、どちらでも良いです。

でも、「謙譲語」については、全く話は別です。
上の表を見てもらえれば分かる通り、5分類の「謙譲語」と「丁重語」は、全く性質の異なる敬語です。
「謙譲語」は、「話題中の動作の主体と客体」についての敬語であるのに対して、「丁重語」は、「話し手と聞き手」についての敬語であり、敬語の舞台が完全に異なるわけです。
これを「対立するものではない」と言い切って良いものなのでしょうか。ちょっと疑問を感じずにはいられません。

どちらにしても、このような、分類して規則を作る作業というのは、まず「今の言葉」という現象ありきで、それに対して理屈付けをする作業です。
つまり、完全に現象に対して「後付け」で作られるものです。

したがって、「正しい」とされる言葉遣いをしたければ、色々な人の言葉遣いに敏感でいることが必要ですね。
そして、より多くの人が「正しい」と言っている言葉遣いをするようにする、つまり、周りの人のご機嫌伺いを常にしておく必要がある、ということです。
「正しい」言葉遣いにこだわる方は、このことに十分留意する必要があると思います。

私はといえば、そこまで努力して、いわゆる「正しい」言葉遣いを、いついかなる場面でも使おうとしようとは、全く思わないです。

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