「ごぞんじ」は、謙譲語と尊敬語の混在する誤用?

※ 以下の記事の続きです。
「ご存じ」「御存じ」「ご存知」「御存知」 どれが正しい?

前の記事で、「ごぞんじ」は辞書の見出し語の表記としては「御存じ」と書かれており、このことから、この単語は次のような成り立ちだと考えられる、と書きました。
『尊敬語の接頭語「ご」』+『「思う」の謙譲語「存じる」』

この表現は、例えば、次のような、いわゆる「誤用」と同じ形式です。
『尊敬語の接頭語「ご」』+『「見る」の謙譲語「拝見する」』
例文としては、次のような感じですね。
お送りした書類は、もう、ご拝見いただけましたか?
この表現だと、「あ、間違いだ」と言う人が多いと思います。

この形式には、次の2つの誤りがあります。
1. 二重敬語(「存じる」が敬語なのに、さらに「ご」を付けている)
2. ひとつの動作に対する、尊敬語と謙譲語の混在

1が単独で現れるケースは、良くありますね。
お伺いする
(「伺う」は、すでに「訪ねる」の謙譲語なのに、さらに「お……する」という謙譲語の形式を使っている)
お召し上がりになる
(「召し上がる」は、すでに「食べる」の尊敬語なのに、さらに「お……になる」という尊敬語の形式を使っている)
これらは、二重になってはいますが、尊敬語と謙譲語の混在はありませんね。
また、これらの用例は、文化庁の「敬語の指針」において、「習慣として定着している二重敬語」とされています。
※参考記事:
二重敬語「お伺いする」と「お見えになる」
「拝見させていただく」は二重敬語?

2が単独で現れるケースは、次のような表現ですね。
ご確認してくださる
(「ご確認する」という謙譲語と、「確認してくださる」という尊敬語が混在している)
※参考記事:
「ご確認してくださる」や「ご確認していただく」は正しい?

さて、これら2つの問題を抱えているはずの「御存じ」ですが、不思議なことに、この言葉について、いわゆる「誤用」だとか「言葉の乱れ」だとか、そういった批判の声をあまり聞かない気がします。
少なくとも、「拝見していただく」を誤りであるとする人の数と比べたら、「御存じ」を誤りであるとする人の数は非常に少ないと思われます。

この理由は、おそらく、次のようなことでしょうか。

1. 「御存じ」は「存じる」を意識せずに使われるため
「御存じ」という言葉を使う時、これが「御」+「存じる」であることを、いちいち認識して使う人はほとんどいないと思います。
これは、例えば、「申し出る」という言葉について、「申す」という謙譲語の意味は通常考えられることがなく、謙譲語の意味を失ったものとして使われることに似ているかもしれません。
※参考記事:
「申す」「申し上げる」「申し伝える」「申し出る」

2. 「存じる」は謙譲語Ⅱであるため
動作の主体をへりくだり、客体を立てる、という機能を持つ謙譲語Ⅰと違い、謙譲語Ⅱは、そもそも、誰かをへりくだるとか立てるという枠組みとは無関係に、改まった場で使われる、いわゆる「荘重態」と呼ばれる敬語だったものではないかと思います。
1で挙げた「申し出る」の例もそうですし、「○○さんは、おられますか?」のような表現も、結構使われると思います。
※参考記事:
「おられる」「参られる」「申される」「致される」は誤り?

でも、現在の敬語のルールとしては、「おられる」という表現は、「拝見していただく」と同様、「二重敬語」+「尊敬・謙譲の混在」という、重罪者のレッテルを貼られています。
「おられる」は「いらっしゃる」に言い換えなければならないそうです。

それならば、「御存じだ」も同じように、例えば「お知りだ」のように言い換えなさい、と言われそうなものですが、私は、このような意見は聞いたことがないです。
「お尻だ」と言っているみたいで、語感が良くないからでしょうか?

「御存じ」が迫害されないのは、「御存知」と表記できることが、上手く隠れ蓑になっているためかもしれませんね。
「存知(ぞんち)」という単語は、古語ですが、辞書にも掲載されています。
これに「御」が付いて「御存知」となり、それがなまって「ごぞんじ」と発音されるようになった、と考えれば、これは普通の尊敬語であり、全く問題がなくなります。

語源として、どちらが正しいのかは分かりませんが、迫害を受けずに済んだ「御存じ」という単語は、ラッキーでしたね。
何かにつけて「誤用だ!」と迫害され、色々な言葉が御用となってしまう、この殺伐とした世の中で、「御存じ」は希望を与えてくれる存在かもしれません。
(あ、「誤用」と「御用」は、意図的に使い分けていますよ。念のため)

広告

カテゴリ
最新記事
全記事表示リンク

全ての記事を表示する

ブログ内検索
Amazon 検索
FC2ブログランキング

FC2Blog Ranking

関連サイト
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR